大崎市田尻総合支所~小松寺木造千手観音坐像~

2022年9月5日

仏像が見られる行政庁舎

宮城県大崎市にある大崎市田尻総合支所は、国指定重要文化財の仏像を見学できる観覧室を備えた全国初の行政庁舎である。

令和元年12月に完成した庁舎には、世界農業遺産「大崎耕土」やラムサール条約湿地「蕪栗沼・周辺水田」、田尻地域の文化財を紹介する田尻歴史展示室、情報発信室が設けられ、田尻歴史展示室の奥に仏像の観覧室がある。

田尻総合支所

田尻総合支所に収蔵されているのは、木造千手観音坐像とそれに附属する形で重要文化財指定を受けた木造不動明王・毘沙門天立像である。

これらは大崎市田尻小松に所在する薬師堂の敷地内にある観音堂において、お薬師様文化財保存会によって守り伝えられてきた仏像だという。

これらの仏像は、平成23年の東日本大震災で観音堂とともに大きな被害を受けたことから、京都の美術院国宝修理所で修復され、平成29年に「院政期における東北地方の仏像製作の様子を知る上で重要な遺品である」という評価を受け、国の重要文化財に指定された。

重要文化財指定にあたり、大崎市が管理団体となったことや、地域の方からの「地域の宝は地域内で守りたい」という声を受け、田尻総合支所内で保存・展示されることになったという。

国指定重要文化財の平安仏

観覧室の手前には田尻歴史展示室があり、田尻地域の歴史を記載したパネルや町内の遺跡で出土した遮光器土偶などが展示されている

展示室の奥に銀行の金庫かと見紛う(実物は見たことないが)くらいの分厚い扉があり、その先が観覧室で、人が入ると自動で照明が点く。

観覧室に入り、ガラス越しに3体の仏像と向き合う。

観覧室左右の壁には仏像の特徴や由緒を解説したパネルがあり、仏像の知識がない人でもよくわかる工夫がなされている。

一般社団法人みやぎ大崎観光公社ホームページより引用

木造千手観音坐像は、写真で見るより大きくて迫力があり、本尊と呼ぶにふさわしい大変ステキな仏様だ。

製作当初は金色に輝いていたものの、長い年月のなかで金箔は剥がれ、下地の錆漆が目立つ姿になっているが、これがまた良い味わいを出している。

本尊の脇を固める脇侍の仏像も、細部まで精巧に彫られており、見ごたえがある。

こんなに素晴らしい仏像が山中のお堂の中でひっそりと祀られていたとは…。

製作された平安末期から現代に至るまで、火災や盗難、はたまた明治の廃仏毀釈の荒波を乗り越え、守り通されてきたことに、地元の人々からの篤い信仰がうかがい知れる。

「宮城で見ておいた方が良い仏像は?」と聞かれたら必ずおすすめしようと思った(しかも拝観料無料なのよ)。

以下、これらの仏像の特徴を観覧室で配布されているパンフレットから簡潔にご紹介する。

木造千手観音坐像

明治初期に神仏分離令により廃寺となった「小松寺」の本尊として伝来。

小松寺は光孝天皇(在位884-887年)の勅願寺として開山されたと伝わり、「小松」という名は光孝天皇が「小松帝」と呼ばれていたことに由来する。

仏像はホオノキを用いた像高100.6㎝、寄木造りの座像で、錆漆下地黒漆塗り金箔仕上げ(錆漆を下地に塗り、黒漆を上塗りした上に金箔をはる手法)が施されている。

また、二重まぶたの目や、背面で髪をたわませて結い上げる髪型(結髪)という珍しい特徴も備えている。

この仏像は、中尊寺金色堂(岩手県平泉町)に安置される奥州藤原氏三代に関わる諸仏のうち、二代基衡のために造られた仏像と類似することから、12世紀後半に平泉の寺院の造仏に携わった仏師により造られたものであると考えられている

木造不動明王立像

木造千手観音坐像の脇侍で、ホオノキを用いた像高72.7㎝、一木造の立像。

錆漆下地黒漆塗り彩色仕上げが施され、頭頂に莎髻(しゃけい)があり、左耳前に弁髪を垂らしている。

  • 莎髻…はますげという草で髪を結い、上から見ると花のように見える髪型
  • 弁髪…すべての髪を束ねて左耳の前に垂らす、おさげ髪の一種

木造毘沙門天立像

木造千手観音坐像の脇侍で、トチノキを用いた像高78.2㎝、一木造の立像。

木造不動明王立像と同様、錆漆下地黒漆塗り彩色仕上げが施され、兜を被り、はた袖衣・広袖衣・袴を着け、着甲している。

  • はた袖…花が開いたように見える袖
  • 広袖…甲の下に着る衣服についている幅広い袂

見学案内・お問い合わせ先等

・大崎市田尻総合支所観覧室

住所:宮城県大崎市田尻沼部字富岡183-3 田尻総合支所庁舎内

公開時間:午前9時~午後4時

非公開日:月曜日及び年末年始(祝日の場合は翌日)

駐車場:あり

・大崎市教育委員会 文化財課

住所:大崎市岩出山字船場21

電話番号:0229-72-4004

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